天才だった女の子
音楽仲間を亡くした。
彼女は私よりも6歳も若かった。私は一応先輩という立場になるのだけれど、彼女のテクニックも音楽への理解も感情を演奏に乗せる力もひとつもかなわないと思っていて、だから少しも先輩ぶれなかった。でもそうすると6歳も下の女の子と何を話せばいいのかわからなくて、いつも仲良くなりたいなあと思いながら、あこがれながら彼女を見ていた。
彼女は天才だった。こんな女の子がいるのか、と会うたびに演奏するたびに思っていた。彼女にはどういうバックグラウンドがあるのかすごく興味があった。
彼女と過ごしたのはたったの1年ほどだった。それも月に一度会うか会わないかだったから、彼女の人生の中のほんのわずかな時間だったと思う。コロナが落ち着いたら、みんなで飲みにいけるようになったら、たくさん話してもっと彼女のことを知って、もっと仲良くなりたいと思っていた。そんなことを彼女のいないところでいつも言っていた。
こんなことになってしまうなら、所構わずウザがられるぐらい話しかければよかった。当たり障りない話じゃなくて、何を聴いてきたのか、弾いてるときどんなことを考えてるのか、どんな音楽が好きか、ちゃんと聞けばよかった。
私は彼女についてなにも知らなくて、なにも語れない。彼女の人生がどんな20年間だったのか少しも知らない。それでも彼女のことを考えるとき、彼女の音楽が聴こえてくるのはすごく幸せなことだと思う。
私がチンしました
会社の人がやさしくていちいち感動する日々。きょうも偉い人にやさしくしてもらった。
と、そんななかにも言い方がキツめで怖いなあと思っている歳の近い先輩がいるのだが、きょう退勤間際ニコリともせずに「一緒に帰ります?」と言ってくださり、言い方がキツいだけのやさしく面倒見のよい人だということがわかった。世の中にはいろいろなやさしい人がいる。
帰宅しオムライスを作った。ケチャップライスを作るときに多めにご飯を解凍していたのだが、ひとつレンジ内に放置していたことに食べ終わったあとに気づく。「私がチンしました…」とつぶやくと、もちもちした人が「生産者さん?」とつっこんできてこの人のこういう返しがマジで好きなんだよな、と改めて思うなどした。
何をするにもパーティー
土日が終わろうとしている。ふたりぐらしは何をするにもパーティーになって楽しい。きょうはR-1ぐらんぷりを観ながら寿司を食べた。個人的優勝は土屋。
久々に美術に関する本を読んでいる。大学4年間美術に関する勉強をしてきたはずなのにあまりにも知識がないことが後ろめたく、卒業してからは展覧会もそんなに観ていなかったが、最近になってやっぱり絵を観ることは楽しいなと改めて思うようになった。自分にとって音楽は生まれてこのかたずっと慣れ親しんできた幼馴染みだが、美術はどうにも手が届かない憧れの先輩という感じで、ずっと近づききれずにいる。最近ようやくわかったことは、その時代からはみ出した画家の視点だったり技術の巧みさがわかると観るのがぐっとおもしろいということ。そのためには美術史をちゃんと理解しておかないといけないなあと思う。美術は永遠の勉強テーマかもしれないなあ。
心をとりもどす
新居の収納に夢中になっていたら無職が終わっていた。
というわけで新しい仕事が始まって数日。このご時世で出社する人数が少ないため、なかなか直接社員のみなさんと顔を合わせることができず、いつ嫌な人に出会うのかひやひやしているのだが、驚くべきことにまだ出会っていない。恐ろしくなるほど皆優しい。直属の先輩上司は穏やかにいつも気遣ってくれて、他の部署の偉い人すら「大丈夫?ちゃんと教えてもらってる?」とか、私がメールを発信したところ「●●さんからの初メールだね~」とかフラットに声をかけてくれる。この環境はいったい何?夢か?と日々ビビると同時に、私がいままでいた環境はもしかするとまあまあヤバかったのかもしれないと思っている。やさしい人たちに囲まると前職で失った人の心を取り戻せるような気がする。
ひとりひとりが優しいのもそうなのだが、組織がフラットなのがプラスに作用しているなあと思う。上からの押さえつけがないので、下の人たちも自信を持ってハキハキ発言しているのがまぶしい。こうなりたいなと思う人がたくさんいることよ。
業務についてはやりたかったことなので面白いし、パワハラは横行していたがやはり前職で培ったものはまあまああったなあと思っている。それでもまったく知識が追い付いていないのでがんばらねばというところ。まだ入社したばかりでいいところしか見えてないんだろうな~という感は大いにあるが、すてきな会社に入れてうれしいなと思っている。
無職20、21日
シングルベッド2つを半日かけて一人で組み立てるなどした。
観たもの
・空気階段第4回単独ライブ「anna」
私はお笑いド新規ファンなので、お笑い芸人の単独ライブを通して観たのは今回が初めてだった。コントってすごい。コント観て泣くことがあるのか。コントって演劇だ。
私は空気階段のふたりのまなざしのやさしさが本当に好きなのだが、それが如実に表れたライブだった。特に最後のコントである「anna」。伏線が回収されたとき、ふたりの幸せはもちろん、あのヤバいおっさんもイカれたお兄さんの存在も、空気階段の踊り場やラジオを愛するすべてのリスナーもすべてを丸ごと肯定する。空気階段はいつもすべての人たちを受け入れて愛している。生産性のない人間、ものごとを否定する世の中と逆行するように。
無職16~19日目
ここ数日のこと。
・祝正式な無職!
正式に無職と相成りました。「いつでも戻ってきていいよ」と言われる退職ができてよかった。
・読んだもの
同世代の岡山出身のおふたり。読んできた本たちの紹介を通じて、おふたりの人生観だったりが覗き見れるのが面白い。小川洋子さんの別れについての一節に震えました。
・観たもの
ポスターデザインが良すぎて気になっていた企画展だったが、展示自体も(キャプションのフォントまでも!)このデザインが活かされていてうれしい。展示の中身も「眠り」というワードを深堀りしていくような、キュレーターの方が意欲的に作られたのが伝わってくる展示でとてもよかった。藤田嗣治《横たわる裸婦(夢)》、モチーフ自体は単純なのだが画面中央の空白が夢を表しているのだろう。画面全体に使われたサーモンピンクもなんだか絶妙に眠くなる色。内藤礼《死者のための枕》、透けたオーガンジーで作られた小さな枕。死者の魂ってこんなサイズかあ、と思ってしまう説得力。このものの存在自体がいとおしい。